<報告>KOSHO, SANSHO, TOKIDOKI SALT vol.9 Czech Night

先日のチェコナイト、イベント中はバタバタしていてロクに食べないので(飲むものは飲むがw)、終わった翌日・翌々日にチェコモーニング。これまでの会で一番好きな料理、だった。

これだけやっているわけじゃない状況下で、隙間時間を使って、ほぼゼロからの下調べやスライド作りは割と大変だし、実は当日も気を張っているので、単純に「楽しい」わけではないんだけど(実は始まる前は、少し憂鬱、ですらある)、知的好奇心にはかないません。こういったイベントがなければ調べたり、本を読んだりすることがなかった国々のこと、歴史に触れる。写真からはそんなイベントに見えないと思うけど(笑)

ただ、この会をやるにあたって心がけているのは、単純な敵・味方理論、二項対立に陥らないこと。とにかく昨今、イデオロギー的な対立的な図式には辟易していることもあり。こういったイベントをやると、どうしてもその国の良い面だけをピックアップしがち。美しい風景、美味しい料理、素晴らしいアート、人々とのあたたかな触れあい・・・。わざと粗探しをするわけではないけれど、その国に対するステレオタイプみたいなものを相対化するような会でありたいとは思っている。それは私自身の偏見をも含めて。

そんな自分本位でありながら、ゲストの方々を頭も舌も楽しませる宴にする、それがこのイベントのキモである。

以下イベントページでのごあいさつ文より
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第9回目の「コショサン」、無事終了いたしました。チェコを旅したことがある方、チェコのおもちゃを持参してくださった方などもいらして、おしゃべりの尽きない夜となりました。

チェコはとても小さな国ですが、ちょうど中欧の真ん中に位置し、ドイツやオーストリアといった列強国に囲まれていることもあって、中世より政治・文化・宗教・工業の要となっていた地域。中欧で最初に設立された大学も、プラハ大学(1348年)でした。

かわいい雑貨やチェコアニメーション、そして美しいプラハの街並みなどが良く知られるチェコですが、中欧有数の工業地帯をいくつももち、ピストルや戦車など軍需産業も盛んでした(「ピストル」の語源はチェコ語であるとの説有)。キリスト教圏ではありますが、中世より宗教的な争いも絶えず、戦後の社会主義体制下では信者と聖職者間の密告も頻発したこともあって、無神論者が多いことでも有名です。

ごくごく限られた時間のなかではありますが、チェコの歴史や背景をいろいろな角度から眺め、「幻想と現実の錬金術の国」としてのチェコに触れる、そんなことをテーマにスライドショーではお話しさせていただきました。自分のなかでもまだまだ知りたいことがいっぱい、、、今回読み切れなかったチェコ本を携帯する日々がしばらく続きそうです。

お盆時期にも関わらず、近くから、遠くから、夜会に集まっていただいたゲストのみなさん、ありがとうございました。相変わらずイベント中はバタバタしていて写真がなかなか撮れず、ゲストの方々のお写真お借りしましたー。

次回は12月、日本を予定しております!

【KOSHO,SANSHO, TOKIDOKI SALT vol.9 Czech Night】
■お食事 by Ruu Ruu
・ムルケフ・サラート(ニンジンサラダ)
・キセリー・ゼレニナ(キャベツ・トマト・きのこ・パプリカの塩漬)
・スマジェニー・クヴィエタック(カリフラワーのフライ)
・ヴェプショヴィー・ジーゼク(豚肉のカツレツ)
・ブランボロヴィー・サラート(ポテトサラダ)
・ブランポラーク(じゃがいものパンケーキ)
・クネドリーキ(チョコとフルーツ入ゆでパン)
・ペルニーク(ジンジャーブレッド)

■お飲物 by Umi
・チェコビール(スタロプラメン)
・ベヘロフカとスイカのカクテル
・杏と桃のブランデーカクテル
・チェコのオーガニックハーブティ

Facebook イベントページ

<告知>KOSHO, SANSHO, TOKIDOKI SALT vol.9 Czech Night

ファッションと食の夜会、第9夜目となる今回とりあげる国はチェコ(Czech Republic)!ナチス侵攻によるチェコスロバキア解体、社会主義体制下における弾圧・抑圧、プラハの春、そしてビロード革命…とチェコの歴史も激動の連続。

そうした状況下で生まれたさまざまな幻想文化、「日常的な不条理」を昇華するような日常生活とアートの結びつき…などなどを、チェコのお料理をつまみつつお話ししたいと思います。歴史的なお話しだけでなく、最新のチェコ・エレクトロニカを聴きながら、現代チェコのポップカルチャーにも迫る予定。

今回はファッションのお話は少なめになるかもしれませんが、この会は一応「ファッションと食の夜会」。ドレスコードは、「幻想世界の住人」でよろしくお願いいたします。当日500円で幻想的なRuuRuuのボウシをレンタルすることができますので、ご自身のファッションに自信がない方はぜひこちらをご利用くださいませ!

料理は、ブランボラーク(じゃがいものパンケーキ)、ヴェプショヴィー・ジーゼク(カツレツ)などをメインに夏にぴったりのメニューになる予定。ドリンクは、ビール消費量世界一で、ピルスナー発祥の地であるチェコですから、ビールが外せません!普段あまりビールを召し上がらない方も、今回ばかりはぜひ味わっていただきたいと思います。プラス、この暑さですので久しぶりにフレッシュフルーツを使用したフローズンカクテルも作る予定です。こうご期待!

チェコ裏

※↑の案内画像に使った料理写真は四谷の「だあしゑんか」さんで食べたもの。
お人形の写真は、雑貨屋「シトラスペーパー」さん「Robin’s Patch」さん「Zakka Room Cozy*Cozy」さん、チェコ暮らしのブログ「チェコ暮らしの小物手帖」、中欧雑貨のブログ「蚤の市フリークの雑貨手帖」さんのサイトからお借りしました。そちらも是非ご覧ください。

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KOSHO, SANSHO, TOKIDOKI SALT vol.9 Czech Night
~「もうひとつの世界」が同居するプラハ幻想~
日時:2018年8月17日 (金) 19:00~22:00
場所:Salon de Ruu Ruu (国立/矢川)
料金:4,000円 (チェコ料理、アルコール3杯付)
※ノンアルご希望の方は事前にお知らせください。当日対応できかねる場合がございます。
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お申し込みはフェイスブックのイベントページよりお願いいたします。
前回「アルゼンチンの夜」の様子はこちら

チェコの料理とチェコビール

今年の前期はなんだか学校仕事で気にかかることが多くって、あまり他のことができなかったのだが、ようやく一段落。ということで、8月17日(金)に、超久しぶりに、ファッションと食の夜会「KOSHO, SANSHO, TOKIDOKI SALT(通称コショサン)」をやることが決定。第9回目となる今回取り上げる国はチェコ。

ということで、会の方向性が定まらないというのに、兎にも角にも食のリサーチにはそそくさと出かけるわけです。東京でチェコ料理と検索すると、2軒しかヒットしないだが、そのうちのひとつ、四谷三丁目から徒歩5分位にある「だあしゑんか」さんに向った。実は今回、3度目の正直でやっと入店することができた。1度目は定休日(ヤホーの時代にアホである)、2度目は店主のチェコ旅行休店日。。チェコ料理のレシピを得ようと思えば、それこそヤホ―でいくらでも出てくるが、それでもめげずに3度目の正直に出かけて行ったのは、1度目にうかがった際ちらっとのぞいた店内がとても素敵で、ぜひともこの場所で食事をしたい!と思ったから。もちろん、内装や食器なども含めた全体的な雰囲気は、お店でしか味わえない。

まずは、消費量世界一、ビルスナーの発祥地でもあるチェコのビール「エーデルピルス」の樽生を堪能。たっぷりと泡を注ぐ、真っ白な「ミルクビール」なる飲み方もある(実際には徐々に泡があがっていくのだが)。最近は家でビールを飲むことがないが、こうしたところできちんとしたビールをたまに飲むのがちょうどよい、などとしみじみ感じながら、付け合せのニンジンサラダをつまみつつ、久々の生ビールを堪能した。

スライドショーには JavaScript が必要です。

メニューは、シチュウ(スープ)、フライ、ピクルスの3本柱。前菜にはこれまた珍しいソーセージの酢漬けをチョイス。白いソーセージが酢漬けされている様子から「ウトペネツ=水死体」という名らしい。そのあたりのネーミングセンスが不条理の国っぽい…なんて雑なことを思ったり笑(いや「馬糞ウニ」も相当ヤバいけど、とどうでもいい連想をしてしまう私)。この酢漬けもそうだし、メインのじゃがいものパンケーキ(ブランポラーク)にかけるタルタルソースにも、カツレツにたっぷり添えられたポテトサラダにも、ピクルスたっぷりで酸味が強く、酸味を愛する私としてはとてもごきげんな料理たち。パン生地(クネドリーキ)にプルーンとチョコを詰めて茹でる、温かくてもっちりとしたデザートも美味。

アルコールは、ヨーロッパらしい薬草リキュール「ベヘロフカ」をロックで。このままだとクセも度数も強いので、イベントではフルーツを使ったカクテルにしようかと。そういえばフランスの夜会の時も「ペルノ」を使ったカクテルを出した。クソ暑いので、フローズンもいいかも…と構想がふくらむ。この日はアルコールは少なめに料理を中心に楽しんだが、チェコの料理は基本的に量が多く、カツレツもどでかいものが3枚、添えられたポテトサラダもてんこ盛りだったので、食べきれず、残りは包んでもらって店をあとにした。


イベントに備え、チェコに関連する本や小説にもボチボチあたっているのだが、今読んでいるのは、学部生だったころの大学の学長・言語学者・千野栄一氏による、プラハに関するエッセイ『ビールと古本のプラハ』。千野氏は当時ロシア語を担当されていたが、超難解で知られるロシア語を私も私の周りの友人たちも履修していなかったし、特にお世話になったり接点を持った記憶もないが(氏が訳したミラン・クンデラの小説を読んだくらい)、時を経たこうした機会に、本を通してではあるけれど、触れられるのはなんとなく嬉しい。本の中で氏は、プラハの古本屋を何軒もめぐり、そして何かっていうと、あちらこちらでビールをたらふく飲んでいる。当時、学食でビールが販売されていたのは学長の意向だったのかしらん。。なんて想像したりして。もしそうだとしたら、その点では学内一お世話になったわ、私。

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ミラン・クンデラ著/千野栄一訳『存在の耐えられない軽さ』(集英社文庫)

読書会vol.44 ミハル・アイヴァス『もうひとつの街へ』

6月の読書会は、予定していたゲストの方の参加が延期になりまして、急遽仕切り直して本を選び直すなどバタバタでした。ここ数回日本の作品が続いたので、今回は久しぶりに海外文学を読みたいねーと、チェコのミハル・アイヴァス『もうひとつの街』を読むことに。実は8月にチェコのイベントをやるので、そのネタを仕込みたくて、私がゴリ押ししたのですが(笑)。

「見知らぬ文字で書かれた本を発見した『私』が、入り込んだ『もうひとつの街』には異界が広がっていた。世界が注目するチェコ作家がおくる、シュールな幻想とSF的想像力に満ちた大傑作」、との紹介文。この手の本って、最初は読みづらいなーと感じたりするのですが、ふいにググッとその世界観に入り込めると、二重の世界を生きているようななんとも言えない感覚を味わえるのですよね。

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とはいえ、幻想小説はわれわれ読書会主宰者(ソフトフライド・サトウ=SFS、ハードボイルド・カツマタ)にとっては鬼門。それでもなんとか読み終え、当日、会が始まる前には会場近くのカフェでお茶するくらい、超余裕ぶっこいていた私でした。

そろそろ会場の「カフェ・レヴァンド」に行くかと歩き出したところ、なんだかオカシイ。ワタクシ、いわゆる「地図の読めない女」ではないのですが、この日は全く見当違いの場所をずんずん歩いていたのでした。再度地図を確認し、いざ!と思ったところで、ハードボイルド・カツマタ氏からメールが。「あのー、店がないようなんですけど」。

とにかく私も会場があるはずの場所に向うと、そこはガランとした空き家。通り過ぎるひとが「ここの喫茶店なくなったのぉ~?」なんてささやいています。まぁそういうことはいくらでもあり得ることですが、もぬけの空となった空間は、なんだか異世界に入り込んだ気にさせられます。否、カフェレヴァンドこそが「もうひとつの街」へ吸い込まれてしまったような・・・。

なんとも不思議な気分にさせられてスタートした今回の読書会。チェコの作家であり哲学論考なども執筆しているミハル・アイヴァスの『もうひとつの街』は、図書館や本がキーとなってくるという点からも、ボルヘスの世界観を継承する幻想小説。街や畑を駆け抜ける緑の大理石でできたバスやスキーのリフト、謎のサメとの格闘、テレビを運ぶイタチたち・・・といったように、次から次へと奇妙な会話や場面が出てくるのですが、「意味」に捉われすぎているカチカチの頭ではなかなかイメージが追いつかない!

物語は、主人公が古本屋でこの世のものではない文字で書かれた本をゲットするところから始まります。その本の「意味」を探していくうちに、どうやら「もうひとつの街」があるらしいことに気づき、その境界を行き来したりするのですが、その世界の中心にたどり着きたいと思っているあいだは、決して辿り着けない、旅立つことができない。そんなテーマは、最後の10ページあたりになって、ようやくクリアになっていきます。

「奇妙な謎はどういうことかというと、最終的な中心など存在せず、マスクの背後にいかなる顔をも隠れてはおらず、伝言ゲームの初めの言葉もなければ、翻訳されるテクストのオリジナルも存在しないということなのじゃ。そう、次々と変化を生み出す、回転し続ける変化というロープでしかない。先住民の街などなく、街という街が無限に連なる鎖でしかなく、変わりつづける法の波が容赦なく流れていく、終わりも、始まりもない円のようなものだ。・・・略・・・すべての街はそれぞれがたがいに中心であると同時に周縁であり、起源であると同時に終わりであり、母なる街であると同時に植民地なのだ」

このあたり、差延=ズレについて論じたフランスの思想家デリダの論考を書いている著者らしい文章です。

「去りゆくものがいなければ、故郷の規律は硬直し、息絶えてしまうだろう。出発は、対話の中断を意味するものではない。そしてまた、真の対話は、去りゆくものと留まる者とのあいだでのみ成立するのだ。同族同士の対話は、飽きもせずに自分の言葉のエコーに耳を傾けることにほかならない。対話というものは、故郷の内部に生きる者たちと、境界を越えて漂っているもの、つまり、衣擦れの音、怪物の叫びや唸り声、亡命者のオーケストラが数日間かけて演奏する楽曲が混じりあう喧噪、との偉大なる対話から栄養を得ているのだ」
そうして主人公は、目の前に停車した、緑の大理石のバスの方に歩き出す。いや~ここまで来るの、私にとってもほんと長い旅だったよ!!って思ってしまうわたしは、やはり「意味」の住人なのだなぁ・・・と。この本に書かれている言葉の世界を、意味で捉えようとするのではなく、イメージとして自由にたゆたう人から、ぜひお話を聞いてみたいなぁと思った会でした。でも、ビジュアル(アニメーションとか)にするとすごく面白い、そんな確信は持てたりはして。

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ミハル・アイヴィス『もうひとつの街』(河出書房新社、2013)